
「通称名」を使っていくことで戸籍上の名前を変えられるって
聞いたけど本当でしょうか??
それに「通称名」ってそもそもどんなもので、
どうやって使えばいいのでしょうか…

通称名の使用実績を理由に、戸籍上の名を変更できる可能性はあります。
ただし、条件や注意点があるので気をつけてくださいね。
まずは通称名の定義を押さえながら、戸籍上の名前を変更するために、
どうやって「通称名」を使っていけば良いか、一緒に見ていきましょう!
通称名で改名できる?最初に押さえる結論

通称名(つうしょうめい)とは、「本名ではない世間一般で使用し、通用している名前」
のことをいい、「通名」や「通称」と言われることもあります。
具体的な例で言うと、戸籍上の名前が「佐藤太郎」という人が会社や友人間で
「佐藤一郎」という名を使用している場合、この「佐藤一郎」が通称名になります。
日本国籍の人は通称名を長年使用し、家庭裁判所へ手続き(申立)をすることで、
「戸籍上の名前を通称名に変更できる可能性」があります。
こちらの記事では、日本国籍の方の改名における
通称名の使用実績の作り方と証拠資料について解説させていただきます。
氏の変更と名の変更で異なる基準
改名に際して、①苗字の変更、②下の名前の変更、③氏名両方の変更
の大きく3つのパターンがございますが、氏(苗字)と名(下の名前)では、
家庭裁判所による判断基準が異なります。
| 変更したいもの | 家庭裁判所の基準 | 通称実績の目安 |
|---|---|---|
| 氏 |
やむを得ない事由 |
10年以上が |
| 名 |
正当な事由 |
成人の場合、 |
通称名の使用実績で見られる3つの要件
これまでの内容を踏まえて、家庭裁判所から通称名への変更許可をもらいやすくするためには、
次の要件を抑えることが重要となります。
①通称名を長い年月使用していること(年数)
②通称名を広い範囲(友人、親族、会社等)で使用していること(使用範囲)
③年数と使用範囲を確認できる十分な資料の数があること(枚数)
理由として、家庭裁判所において、通称名が社会生活上どの程度定着しているか、
戸籍名との不一致によってどのような支障があるか、証拠資料で確認されるためです。
下記にてそれぞれの要件について解説いたします。
使用年数

通称名を理由に改名する場合、「通称名の使用年数」が重要になります。
裁判所は、通称の証拠資料を見て、通称名の使用開始時期を判断します。
そのため、長年通称名を使用していたとしても、口頭での根拠ではなく、
裁判所に証拠として通称資料を提出できなければ、基本的に裁判所は通称実績を認めないものとなります。
使用期間の目安としましては、
氏の変更の場合は10年以上、名の変更の場合は5年以上(成人の場合)となります。
つきましては、上記の期間を目安に実績を積むために、
通称名を使用し始める際に大事なことは、
Amazonの注文書など、まずは、「日付・通称名・使用場面が分かる資料」を早い段階から残すことです。
ただし、通称名の資料が注文書ばかりだと有力な根拠と認められにくいので、
まずは注文書などを準備しつつも、徐々に友人、家族、職場などからの書類を
揃えていくようにしましょう。
また、使用年数が長いことを提示できることで、「一時的な思いつきではない」
ことを証明することに繋がります。
基本的に改名許可が下りた後に、再びその名前を変更することは困難なため、
使用年数の長さを提示できることは、通称名と戸籍名を揃えることの
意志の固さを示すことができます。
使用範囲

戸籍上の名前を通称名に変更するには、年数に加えて、通称名が広く認知されている必要があります。
繰り返しとはなりますが、通称名をAmazonや楽天などのネットショッピングだけで
使用していても、周りに認知されているとは判断されづらく、
改名できる可能性も低くなります。
そのため、可能な限り、親族、職場、友人、近隣の人たちなど、
広い範囲で通称名を使用し、
証拠となる通称名が記載された書類を準備していきましょう。
裁判所に証拠として書類を提出する場合、友人や職場内の方など、
最低でも5人以上の人からの資料があることが好ましいです。
理由としては、「個人的に通称名を名乗っているだけ」ではなく、
「他人が通称名で認識している」という事実があることによって、
改名の必要性が大きく異なってくるためです。
また、使用範囲が広ければ広いほど、
裁判官も「通称名への改名を認めなければ、周囲の人々の混乱を招く」
という状況が生まれると判断する可能性が高まると同時に、
「社会生活における名前の不一致」を解消する必要性を示せます。
このように、職場や学校等で通称名を使用できているにもかかわらず、
公的な手続きにおいては戸籍名を使用しなければならないことで
社会生活に支障が出ているという事実は、改名の必要性において重要な要素と判断されます。
家族、親戚、友人間

家族、親戚、友人間での通称名の使用は、「最も身近なプライベート圏」
で認知されていることの裏付けとなります。
これは、ビジネスネーム(芸名やペンネーム)として
通称名を使用しているわけではなく、
公私ともに通称名を使用して生活を行っていく意思があることを裁判官へ示すことに繋がります。
また、親や配偶者、子から通称名で呼ばれていることは、
身近な人物が通称名使用を同意していることや、改名後の混乱が少ないことの証明となります。
職場、学校

職場や学校における通称名の使用は、「オフィシャルな場での定着」を意味し、
通称名が「社会的な責任を伴う名前」として機能していることの証明となります。
先述の家族、親戚、友人は、近しい存在であるがゆえに、
通称名の使用を受け入れてもらいやすいですが、職場や学校という組織による公認は、
いわゆる「第三者からの通称名使用の承認」を得たことの証明となるため、
さらに改名の必要性を示すことができる根拠となります。
加えて、職場や学校は「名前が2つあるような状態」
としての実害が最も発生しやすい環境となります。
具体的には、職場や学校においては、
事務手続きや在籍登録に際して、公的書類の提出が必要となる環境のため、
「給与・年金・保険」、「資格・免許」、「在籍証明・卒業証明」において、
戸籍名と通称名のずれによる支障の発生に繋がります。
物品購入先

ネットショッピング等の物品購入先での通称名使用は、
自分自身で登録内容を変更することにより気軽に使用できるため、
「周囲に認知されている」資料としては認められづらい側面がありますが、
最も身近かつ、通称名の使用ハードルが低い方法となります。
そのため、改名に向けた通称名使用を検討されている方は、
まずはこちらの方法から実績を積まれることをおすすめします。
しかしながら、送付状内の宛名が通称名の場合、
郵便局員や宅配業者において宛名不明となったり、
居住確認が取れないことが原因で、誤配送や出荷元への差し戻しが
発生する恐れがあるため、この点では使用範囲やタイミングに注意が必要です。
契約先

契約先での通称名使用は、職場や学校での使用と同様に、
「オフィシャルな場での定着」を裏付ける根拠となります。
しかし、各種契約書の記入や保険の契約においては、
規定が厳格に定められているケースが多く、
通称名の使用が認められない場合もございます。
その場合は、代替策として、
契約締結までの担当者とのやりとり(LINEやメール)を残すことで、
契約の場面においても可能な限り通称名の使用をしているという
根拠を示すことに繋がります。
枚数
年間で集める枚数の目安

通称名の資料は、1つの資料だけを大量に集めるのではなく、
複数の使用先から継続して集めることが大切です。
目安としては、1つの使用先につき、各年度3〜4通程度の資料を残しておくとよいでしょう。
例えば、①LINE、②勤務先のメール、③郵便物や送付状
の3種類を軸に資料を残す場合、それぞれ年間3〜4通程度を集めると、
年間の合計は10〜15通程度になります。
そのため、申立てまでに手元に用意しておきたい資料の総数は、次のようになります。
※あくまで目安の枚数です。
| 変更したい内容 | 使用年数の目安 | 年間の資料数 | トータルの目安 |
|---|---|---|---|
| 氏の変更 | 10年以上 | 10〜15通程度 | 100〜150通程度 |
| 15歳以上の名の変更 | 5年以上 | 10〜15通程度 | 50〜75通程度 |
| 15歳以下の名の変更 | 3年以上 | 15〜20通程度 | 45〜60通程度 |
つまり、氏の変更であれば、最終的に100〜150通程度、
成人の名の変更であれば、最終的に50〜75通程度を目安に
資料を残しておくと整理しやすくなります。
なお、15歳以下の名の変更では、3年以上の通称実績が一つの目安となり、
赤ちゃんや小中学生の場合には、3年未満でも事情によっては
十分な通称実績として認められる可能性があります。
そのため、赤ちゃんや小中学生の場合には、各年度の資料を少し多めに残し、
短い使用年数でも枚数を確保しておくことが望ましいです。
たとえば、LINE、成績表、学級だよりの3点を軸にする場合は、1種類につき年間5〜6通程度集め、
年間15〜20通程度を目安に残すとよいでしょう。
最終的に、3年間であれば45〜60通程度を手元に用意するイメージです。
どんな資料を用意するべき?
通称名使用の根拠を示すものとして、大きく次の2種類の資料を集める必要がございます。
①紙媒体のもの
②デジタルデータのもの
パソコンやスマートフォンが発達した現代においては、
そのようなツールから確認できる資料を用意することが通称資料を集めるにあたってカギを握ります。
下記にてそれぞれについて解説していきます。
紙媒体のもの

紙媒体の資料(原本)は、デジタルデータよりも改ざんがしにくく、
資料としての信憑性が高いと判断されやすくなります。
下記にて、代表的な紙媒体の資料をご案内します。
①郵便物
封筒の宛名面やハガキは、郵送される際に「消印」が押されるため、
日付と通称名の使用を示せる資料としてとても有効です。
代表例として、年賀状、暑中見舞い、封筒での郵便物などがあります。
②公共料金の請求書
こちらも、基本的に毎月発行されるものとなるため、
継続的に通称名資料を集めることが可能です。
代表例として、電気、ガス、水道、NHKなどがあります。
③ダイレクトメール(DM)
友人や知人以外からの郵送物以外にも、ショップなどから送付される
ダイレクトメールも通称資料となります。
④会報やファンクラブからの案内
通称名で登録することにより、定期的な活動の証明になります。
⑤名刺、社員証、入館証、名札
勤務先等での通称名使用を証明することができる最も有力な方法です。
⑥給与明細、源泉徴収票、社内報、行事予定表
名刺等と同様に、勤務先における通称名使用の根拠となります。
⑦診察券、医療明細書
各医療機関の判断とはなりますが、定期的に通院している状況で
通称名使用が認められた場合は、継続して通称資料を集めていくことが可能になります。
~学生などの未成年の場合~
①成績表、通知表
未成年の場合は、学校に所属していることが多いため、
請求書等の代用として、学校における通称使用の実績を示すことが重要です。
日常生活の大部分を過ごす環境において通称名の使用を
認められているという事実を示すことは、改名において有力な根拠となります。
②学校内での月報
成績表、通知表に加えて、「学級だより」のような
発行物においても通称の実績を示すことができますので、
欠かさずに保管することが重要です。
デジタルデータのもの

デジタルデータの証拠は、スマートフォンが普及し、
一人一台保有しているような現代において、
「瞬時に、大量に、過去に遡って」集めることができるという強みがあります。
下記にて、代表的なデジタルデータの資料をご案内します。
●LINE資料
LINEなどのチャットツールは、
スマートフォンを保有している場合、大多数の方が利用しているツールです。
チャット画面をスクリーンショットし、通称名使用の資料として
用意しますが、相手の名前、アイコン、通称名の発言、送信日時がセットで
収まるようにすることが重要です。
●メール資料
メール資料については、プライベートやビジネス上のやりとりにおいて、
宛名に通称名の記載があるものを集めていきます。
メールにおいても送信日時と、可能な範囲で相手の名前が
認識できるようにすることが理想です。
しかし、特にビジネスメールにおいては、社外秘の内容が含まれていることが
多いことから、準備が難しいと感じるかもしれませんが、メール本文の内容までは
示す必要がないケースがほとんどですので、そのような箇所を黒塗りにしたうえで
裁判所へ提出することを伝えることで、勤務先の理解を得やすくすることに繋がります。
資料ごとの有用性
これまでに各場面での通称名使用についてご案内いたしましたが、
有用性の観点から順位付けをすると次のようになります。
①職場、学校、家族、友人間
②公共料金の明細書、SNSのプロフィール
③Amazonなどのネットショッピングの注文書
基本的に、第三者によって認知されていることが重要となり、
③においては自分自身で登録、変更ができるものとなるため、相対的に有用性は低くなります。
今日からできる通称名の使用実績の作り方
これまでの内容を踏まえて、今日からできる通称名使用開始から、
家庭裁判所への改名申立までの流れの一例は次の通りです。
| STEP | 各ステップの内容 |
|---|---|
| 1 |
まず、使用する通称名を |
| 2 |
家族や友人に通称名で |
| 3 |
LINEやメール、郵便物など、 |
| 4 |
職場や学校で通称名を |
| 5 |
毎年、相手や使用場面の |
| 6 |
戸籍名との不一致で |
| 7 |
申立て前に資料を |
通称名への改名で整理すべき内容
通称名への改名では、単に実績を残すだけでなく、
改名申立に際して、なぜ戸籍名ではなく通称名を使用するようになったのか、
裁判官へわかりやすく伝えることも重要です。
そのため、例えば次のような事情は整理しておくとよいでしょう。
・戸籍名を使うことで誤読・誤記が多いこと
・戸籍名を使うことによって強い精神的負担がかかること
・上記のような理由から、学校や職場では通称名で生活していること
・公的手続きのたびに戸籍名との違いを説明する必要があること
・周囲からは広く通称名で認識されており、戸籍名を使うとかえって種々の混乱が生じること
上記の内容を整理することで、申立理由の作成時や、出廷面談が実施された際に、
改名を必要とする理由を具体的に表現しやすくなります。
通称名を使用する際に気を付けるべきことは?
これまで述べたように、通称名使用に際しては各場面において注意点がございます。
裁判官において「正当性がない」と判断されないために、
特にどのようなことに注意すべきか、下記にて解説いたします。
通称名の悪用

改名手続きにおいて、裁判官が警戒する事柄として、
犯罪の隠蔽、借金から逃れる、不法入出国、社会制度の悪用といった、
「不当な目的」のために名前を変えようとしていないかという点が挙げられます。
具体的には、借金の申し込みや違法な契約の際は通称名を使用し、
公的な義務(税金や年金)の場面では本名を使用したりすることや、
そのような行いを周囲に隠していることが挙げられます。
これらは、公私において一貫して通称名を使用するという意思が見えないため、
改名申立においも不利になります。
また、経済的な透明性を確保することも大切です。
例えば通称名で契約した公共料金、家賃、ネットショッピングなどの支払いが
遅延することは、社会的信用の喪失に直結します。
加えて、通称名使用の際は、自身が使用している名前が通称名であり、
改名予定のためであるといった使用理由の明言をするなど、
周囲へ誠実な対応をすることが重要です。
その他、社会的な所属を明確にすることも重要です。
先述のように、勤務先等で通称名を使用できる場合、
所属組織の公認を得ていることの証明となり、
組織が通称名使用者の身元を保証していると判断されます。
また、学校で通称名の使用が認められた場合、
少なくとも数年は通称名の使用実績を積めることが確定し、
友人や関係者が通称名を知っていることは「なりすまし」の人物ではないことの証明となります。
さらに付け加えると、改名によって過去の犯罪歴の消除等を
目的としていないかという観点も重要となります。
犯罪を犯したことで、実名報道されるなどの状況が発生することもありますが、
戸籍法ではそのような事情での改名は想定していないものとなります。
公的な場面での使用

先述の内容に加えて、役所、病院、金融機関、資格関係などの
公的な場面で通称名を使用・申請する際に、重要となるポイントをお伝えいたします。
・申請や相談をしたうえでの使用
公的場面で通称名を使用する際には、私人間とは異なり、
使用することを明確に提示する必要があります。
病院やクリニック、公共料金においては通称名使用を
配慮してもらいやすい傾向にあるため、申請や相談をせずに使用することは
却って種々の支障をきたすことに繋がります。
また、健康保険証・資格確認書等については、性同一性障害を有する方について、
保険者の判断により通称名の記載が認められる場合があります。(厚生労働省通知より)
ただし、誰でも自由に通称名を記載できるわけではなく、
戸籍上の氏名の記載方法や必要書類は保険者によって確認が必要です。
加えて、公的機関においては通称名を使用することが難しいからこそ、
その他の場面において通称名で広く認知されているにも関わらず、
戸籍名との差異から本人確認に時間を有するなどの支障の発生は、
改名の必要性をより訴えることにも繋がります。
避けたいNG例
これまでの内容を踏まえて、通称名使用で避けたい行為の例は次の通りです。
・本人確認が必要な契約で、相手に説明せず通称名だけを書く
・履歴書や雇用契約書に戸籍名を隠して通称名だけを書く
・借入れや支払い義務がある契約で通称名を使い、本人特定をあいまいにする
・複数の通称名を場面ごとに使い分ける
・SNS上だけで通称名を使い、実生活ではほとんど使っていない
まとめ

通称名を使用することによって、最終的には戸籍名の改名を達成するためには、
「通称名で社会に認められていることの実態」を裁判官へ示す必要があります。
そのためには、先述のように年数、使用範囲、枚数の3点が重要な要素となります。
これら3点を重視することで、「点」での使用ではなく、
「面」の観点から使用実績をつくっていることを示すことに繋がります。
また、なによりも「証拠に残す」ということが大切になります。
いくら口頭でのやりとりで周囲に通称名で認知されていたとしても、
そのことを証明できない限りは通称名の実績を
積むことができているとはいえないものになります。
最後に、社会秩序を保つために、改名は裁判官によって慎重に判断されるものです。
しかし、通称名の実績を正しく、効率的に積むことができれば、
おのずと改名の道が切り拓けていきます。
「名は体を表す」ということわざにもあるように、人生を歩んでいく上で、
名前は切っても切れないものです。
様々な事情で改名を検討する際に、改名までの道のりは一朝一夕といかないケースが多いですが、
少しでもこの記事が改名というゴールに向けた歩みの一助となりますと幸いです。
この記事の執筆

菅野 雅晴 (司法書士事務所エベレスト大阪)
改名業務を専門とする司法書士事務所において、日々改名手続きのサポートに従事する
現役スタッフ。
改名希望者の悩みや不安に寄り添った情報を発信中。
